
「今日の部活無しね。」部長がわざわざ一年生の教室に来て教えてくれた。他のクラスの人にも教えろと言われたけれど、この強い雨じゃ今日の部活は無いと誰もが思うだろう。とりあえず昼休みにでも他のクラスのやつらに教えに行こうと考え、部活無いとつまんないなーと思いながらそのまま席に着いた。隣の席の本庄くんは相変わらず本を読んでいた。カバーをかけていたので何の本を読んでいるのかわからないけれど。雨の日は読書とかも良いかもな、と考えていると同じクラスの怜奈ちゃんをはじめとした家庭科部が寄ってきて「新作のお菓子どれがいいと思う?」と私の前にレシピ本を広げた。チョコレート、いちご、マロン・・・色とりどりのお菓子を見てあれが良いこれが良いと話していると、隣の本庄くんがついにキレてしまったようだった。彼は勢いよく立ち上がって出て行ってしまう。私の周りに人が集まると決まってそうなるのだ。きっと本を読んでるから騒がしいのはダメなのだ。かと言って教室の中だし、休み時間だし、騒いではいけないとは思うけど騒いじゃいけないというわけでもないのだ。家庭科部のみんなは「鷹くん怒っちゃった?」と真っ青な顔を見合わせる。私は彼は神経質すぎるんじゃないかなーと思っているので特に気にせず「チョコレートがいいな。」と暢気に家庭科部に言った。怜奈ちゃんは「今チョコレートの値段高いのよねぇ。」と主婦みたいなことを言ってみんなを笑わせた。あっという間に雰囲気は戻り、チャイムが鳴ったので各々の席に着いた。本庄くんも戻って来た。私の方を見なかったけれど、どことなくさっき騒がしくしたのを怒っているような雰囲気だった。
次の休み時間にもまた誰かに呼ばれたようでクラスメイトの男子が「おーい、!またお客!」と叫んでいる。なんだなんだ。今日は訪ねてくる人多いなぁと思ってドアに寄ると同じ部活の三井ちゃんだった。「あのね、さっき部長が来たんだけど〜今日の部活やっぱ中止じゃなくて体育館でやるって。」三井ちゃんは体育館は嫌だと付け足す。「体育館?」「そう。アメフト部と共同だってさ。」「へぇ。」アメフト部と共同って言っても、あいつら専用ジムあるじゃないか。あれ?専用ジムって一軍だけだっけ?それじゃあ二軍からと共同ってことだろうか。よくわからないまま三井ちゃんに「ありがとー。」と言って再び席に戻る。体育館というと、どうせまた筋トレになるのだろう。別に筋トレでもいいんだけど、やっぱどっちかというと泳ぎたいものだ。うちの学校は私立のくせにプールが屋外というダメダメな施設設備なので強い雨が降ってしまったら泳げない。仕方ないけれど。
雨なんか降るから泳げないんだ。「止まないかなぁ。」自分にしか聞こえないくらい小さな声で言ったのにどうやら隣の席には聞こえたようで、本庄くんは「泳げないから?」と本を閉じて聞いてきた。っていうか、しゃべった。いや、話しかけてきた、か。そんなの席替えしてからはじめてのことだった。少しの思考回路停止のあと、ハッとして「う、うん。そうそう。」と答える。本庄くんは「さんは、クロールでしょ。」と続けて喋ってきた。これにはさすがに驚いた。「え、うん。え?」「いつもグラウンドから・・・・。」ボソっと応える本庄くんに「あー!そっか!プール見えるよね〜。」とつい友達と話してるように言うと、本庄くんは突然ガタガタガタッと音を立てて教室から飛び出して行ってしまった。私はその行動に呆気に取られてしばらく本庄くんが出て行ったドアを見つめていたけれど、入れ代わりに前のドアから数学の先生が入ってきたので前を向きなおした。
数学が終わると私はクラスの前の方でいつものお弁当組の輪に入って食べ、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ってから自分の席に戻る。隣の席には本庄くんが戻って来ていた。さっきは具合でも悪かったのだろうか。「さっきどうしたの?」と質問すると、無視された。なんなんだこいつは。だけど、これ以上聞いても無駄なんだろうなぁと思い次の英語の授業の教科書を机に出す。午前より雨声は大きくなったようだった。