最近、私が考えていることがわかるようになってきたと赤羽くんが言うものだから「じゃあ今なに考えてるか当ててみてよ。」と 意地悪してみる。超能力者じゃないんだからそんなことわかるはずない。 ふふふ、と笑うと赤羽くんは無表情で私の目を見てきた。真っ赤な目を見つめ返すと、何かが光っている。 彼と出会った日から、私は彼の瞳の中にその正体不明の光を見ている。 きらきら、きらきら、と瞬いている光。 ただ、その光っているものは彼の瞳の中にしか無いものだということはわかっている。


赤羽くんの目を見つめているときらきらの光で疲れてくる。 視線を外すと、赤羽くんは「わかった。」と呟いた。 「恥ずかしい、だろう。」と得意げな顔で言われ、思わず苦笑いする。 私は赤羽くんは複雑なのか単純なのか未だにわからない。 時々、変な答えを真顔で言ったり、今みたいにすぐに答えを導いてみたりもしているからだ。 曖昧な私の否定に傷ついたのか、黙り込んでしまった赤羽くんを見て慌てる。 「いや、半分は合ってるかな〜・・・なんて。」 フォローになってないようなフォローを入れれば、すぐさま赤羽くんは「そうだろ。」と顔を上げた。 やっぱり単純なのかもしれない。


「残りの半分は何を考えてたんだ?」 どこかまだ拗ねてる様子の赤羽くんが、彼には珍しく机から身を乗り出しそうな勢いで聞いてきた。 まさか「どうせ人が考えてることなんてわかるものか、わはは!」と考えてたなんて告げたら怒るかもしれない。 赤羽くんが怒ったところなんて見たことないし、見たいような見たくないような気もするけれど。 でも怒られるのは嫌だし、喧嘩の雰囲気は嫌いだし。 なんて言い訳をしようかと悩んでしまう。 いや、言い訳するよりも話題を逸らせばいいのかもしれない。 うん、そうだ。その作戦でいこう。 「そういえば、赤羽くんの目を見てるとね。」「・・・俺の目?」 突然、話題を変えられたことに戸惑っているのか私の方をまじまじと見つめてくる。 見つめてくる彼に合わせて彼の目を見つめ返すとまた、きらきらが出ている。 「きらきらが出てくる。」「きらきら?」 「そう、きらきら。」「・・・きらきら。」 なんという微妙な空気だろう、と言ってしまってから後悔してしまった。 そもそも「きらきら」とか幼稚園児並みの表現じゃないだろうか。 もっと別の表現方法あるだろうに。 例えば、なんだろう・・・赤羽くんの目が輝いてるとか? いやいや、どっちもダメな気がする。


私が一人で恥ずかしがっていると赤羽くんは「きらきら?」と何度か口にして黙り込んでしまった。 やっべー。やっぱり、私ってば恥ずかしいこと言ってしまったのかもしれない。 だって、周りからだいぶ浮いてる赤羽くんが黙り込んじゃうくらいだ。 もうだめ、今すぐここから逃げたい。家に帰りたいです。 「そうだな・・・それを証明するために、少し実験してみたいんだが。協力してくれ。」 「は?実験?」「すぐ終わるから大丈夫だ。」「え?う、うん。」 私が怪しんで赤羽くんを見ると彼は制服のポケットからサングラスを取り出した。 え?まさか。まさか、そこまで単純な・・・。「よし、じゃあサングラスをかけた状態ではどうだか実験だ。」 サングラスをかけた赤羽くんは顔をずいっと近づけてきた。 呆れつつも私も顔を近づける。 目はよく見えないけど、なんだか、今度は赤羽くんからきらきらが出てる気が、する。 「うーん・・・今度は赤羽くんの全体からきらきらが出てるみたい。」 「なるほど。」サングラスを再び外して赤羽くんは椅子に座り直した。 そして、さりげなく足を組み直すと、刑事ドラマで見たことあるようなポーズで額に手をあてて何やら考え込んでいる。 別に深く考えるような問題でもない気がするけれど・・・。 赤羽くんには言ってないけれど、彼だけからきらきらが出てるとかどう考えても、ねぇ? もうそういう答えしか導けないことは自分でもわかってはいる。 でも、あっさり認めると彼の前で自分を保てなくなりそうで怖くなるから深く考えたくないだけなのである。


「フー・・・それじゃあ次の実験だ。」「え?あ、うん。」 まだするのかよ!というツッコミを飲み込んで頷く。 もういやだ、この人。 「よし。瞳を閉じてくれ。」「目を閉じるのね?」 「言葉の響き、というのは大事だと思わないか?」 「伝わるかどうかも大事だと思うのですが。」 「その大事なことを確かめるための実験がこれからする実験だ。」 「?」 赤羽くんは再び机から身を乗り出して、こちらに顔をゆっくりと近づけてくる。 おい、まさか・・・まさか。 「目を・・・。」「閉じません。」 「・・・。」「閉じません。」 ぐいっと赤羽くんの顔を押し返す。 彼は不満そうな顔になり、再び拗ねそうな雰囲気を醸しだした。 もういやだ、この人。今いるところは学校の教室なのに。 「あのですね、ここでキスするのは嫌です。」 「俺がしたいのは実験だ。」 あくまでも実験と言い張るつもりなのだろうか。 もっと上手いこと言えばいいのに。 上手いこと言われてもキスしたくなるかは別だけれど。 「・・・わかった。もう実験はやめよう。」 私が折れないと悟ったのか、赤羽くんはあっさりと折れた。 ほっとして、身構えていた体の気を抜く。 それが悪かった。 ゆっくりだけど素早い動きで、顎をつかまれると唇が重なる。 重なった瞬間、目の奥がきらきらしはじめる。 赤、青、黄色に緑、紫やオレンジ、色とりどりのきらきらが私の目の中に広がった。 唇は角度を変え、浅く重ねられていく。 深く重ねられてはいないのに、眩しさでどうにかなりそうだった。 もう耐えられないと、赤羽くんの胸に手を当てると唇はゆっくりと離された。 でもまだ目の中にきらきらが光っていて、早くなんとかしなければ光の中に溺れそうになってしまう。 なのに、赤羽くんに小さく「。」と呼ばれると私は顔を上げずにはいられなくなる。 どうしよう。赤羽くんだけじゃなくて周りの世界までもが、きらきらしはじめていた。










all things bright and beautiful

すべてのものは輝いて美しい

be lost for the world

こころをうばわれる

that is all

それでぜんぶなんです