変光星 のまぼろし


人通りの少ない裏門から帰ろうと歩いていると「!偶然だね!」と、にこにこした大和くんが目の前に現れた。動揺した私は鞄を自分の足の上に落としてしまった。「いだっ!」「大丈夫?」大丈夫じゃねーです、と言う代わりに私は溜め息を吐く。なんでここにアメフト部のエースである大和くんが、いつもならアメフト部の練習の最中なのに何故いるのか。あまり聞きたくなかったけれど、一応聞いてみることにした。「なんでここに?」「偶然だよ、偶然!」曇りない笑顔で言われても困るけれど、大和くんはどうやら押し通すつもりのようだったので深く追求するのはやめた。


一方的に大和くんが話し私が頷いたり一言返したりを繰り返しながら歩いていると、あっという間に駅が見えてきた。そういえば大和くんも電車通学なんだろうかと思いながら彼の方を見ると、にこっと笑われる。この人はよく笑う人だなと思う。あと、いつも自信たっぷりで堂々としている。クラスにいる時も大和くんは自然にリーダーになったりするし。そういうところは彼の良いところだと思う。同時に鬱陶しいところでもあるけれど。私はクラスでも地味な方で、まぁ、地味だ地味だと嘆けども悪目立せず平穏に暮らせて高校生活は満足だった。そんな平穏な生活も「今日は良い天気ですねぇ。」くらいの感じで大和くんに付き合ってくれと言われた時から終わってしまったのだけれど。そうだ、私たちは一応は付き合っているんだった。今さらながらぼんやり思い返していると自分の右手に何か触れて優しく包まれる。それが大和くんの左手だと気づくのに時間はかからなかった。


駅までもう少しだった。大和くんは同じ口調で他愛ないことを話している。私はちっとも彼の話が頭に入らず、ただただ頷いたり口元を少し動かして笑うしかできない。この人はいつもそうだ。突然だ。突然なのに自然だったりする。私はどうすればいいのかわからなくなって挙動不審になる。そんな自分がすごく嫌だし、慣れてるような大和くんにも少し嫌悪する。でも、手を握り返したりしたら彼は違った笑顔を返してくれるはずだ。恋人らしい行動をするのはいつも大和くんからで、私が彼の行動に応えたり彼よりも先に行動すると、笑顔で隠してるつもりだろうけれど、その笑顔はなんだかぎこちなくて内心焦ってるであろう彼の心が垣間見えるのだ。私は彼のそういう笑顔が実はすごく好きでしかたない。だから、駅に着くほんの少し前で手を握り返してやろう、と思う。